Senior シニア期について
動物たちも昔に比べ平均寿命が延びてきています。ですが、犬・猫は人間よりもかなり早いスピードで年を取っていきます。
1歳を迎える頃には、人間の年齢にすると約20歳を超え、7歳を過ぎる頃からシニア期が始まります。
いつも可愛い存在だからこそ、ワンちゃん、ネコちゃんの加齢による変化は分かりにくいものです。加齢による衰えは当たり前だからと、変化に気づいても来院されないケースが多くあるのも事実です。
早期発見・早期治療を可能にするためにも、大切な家族の一員であるワンちゃん、猫ちゃんに「変化」が見られた場合は、まずは獣医師にご相談ください。
老化が始まる時期
一般的には、4~5歳をピークとして、小型犬で11歳、中型犬で9歳、大型犬で7歳くらいから老化が加速すると言われています。私たち人間に比べると、早いです。ただ、いつまでも若々しい子もいれば、割と早くに毛が白くなってシニア犬らしい様子を見せる子もいて、個体差がありますが、それは私たち人間と同じです。あくまでも目安とお考えください。
老化に気づくことの重要性
今まで、出来ていたことが出来なくなった……大切なワンちゃんやネコちゃんのそんな姿や様子を見たときに、ふと寂しくなったりするかもしれません。しかし、それだけ長く一緒にずっといるという喜びと感謝をしてみましょう。そしてこれからは、老齢期を少しでも楽しく、元気に過ごすにはどうしたら良いのか考えてみましょう。必ず、それぞれに合ったシニア期の過ごし方があります。子犬時代とは違って、シニア犬ならではの可愛さがあるのです。一緒に長い時を過ごしてきたからこその、愛情や可愛さです。
そのためには、老化のサインは見逃したくないものです。サインに早く気づいていれば、いろいろを気遣いできたり、予防できることがたくさんあります。特に、睡眠は顕著にあらわれます。高齢になってくると、寝ていることを好み、睡眠時間が長くなります。耳が遠くなったり、周りへの興味が薄れたりして、一日中寝ているという感じになってきます。
以下に当てはまるものがあれば、老化からきているかもしれません。しかし、それが必ず老化のサインとは限らず、中には病気の原因になっている場合もあるので、気になれば当院へお越しください。
- 寝ているときに起こしても、なかなか反応せず、起きてこない
- 来客があったり、雷や騒々しい音・気配がしても寝ているだけであまり反応しない
- 上記で反応しても、一瞬、目を開けたり、首を起こして興味を示すが、すぐにまた寝る
- 今までは、自分専用の場所で寝ていたが、家族のそばで寝たがるようになる
- 昼夜が逆転し、昼間は眠っているが、夜に起きだして、徘徊したり、泣き続けたりする(認知症の症状の一つ)
主な老化のサイン
視力
- 目が白くなってくる
- 動くものに対して素早く反応できない
- 目を擦ったりする
- 特に薄暗い所で物にぶつかるようになる
- 段差などを怖がったり、躊躇する
体の変化
- 息切れがする
- 免疫力が低下することで、病気にかかりやすくなる
聴力
- 大きな音や、来客などに対してもあまり反応しない
- 名前を呼んでも気が付かない様子
- 耳を良く動かし、音を拾おうとする
皮膚や被毛の変化
- 人間でいう白髪が増える
- 被毛が薄くなったり、伸びが悪くなる
- 皮膚に弾力が無くなり、フケが目立つ
- 皮膚トラブルを起こしやすくなる
- 被毛の色や鼻の色が薄くなる
食欲
- 食べ物に対する執着が強くなる
- 食欲が異常なくらいある
- 逆に、食欲があまりない
- 食べる気はあるようだが、上手に食べられない
- 固いものが食べられない
行動や動作
- 疲れやすく、あまり運動をしたがらない
- 動作が鈍くなる
- 走ることが少なくなり、首やシッポを下げて、とぼとぼ歩くことが多い
- 立ち上がるのに、もたつく
- 足を引きずったり、歩き方がおかしい
- 会談や段差の上り下りがしづらい、出来なくなる
- 身体や足がぷるぷる震えたりする
排尿・排便
- トイレが近くなった
- 粗相をするようになった
- オシッコやウンチをしようとするが、なかなか出ない
- 尿の色が濃くなったり、血が混じることがある
- 便秘
意欲
- 散歩や遊びなどあまり喜ばなくなった、すぐに飽きてしまう
- 他の犬や物事にあまり興味を示さなくなった
- 表情が乏しい
- 触られるのを嫌がる
Sick シニア期にかかりやすい病気
以下のような行動は人間でも見られます。
ペットは人と比べて寿命も短い上に、可愛いので飼い主様もなかなか老化現象を受け入れることができない場合があります。
しかし、大切な家族のための穏やかな老後の生活は一緒に暮らし始めた日から心掛けなくてはなりません。
1. 椎間板ヘルニア、変形性関節炎
- 元気がない
- 足に触れると嫌がったり、痛がる
- 歩き方がなんだかおかしい
- 動作が鈍い
- 立ち上がるのが困難
- 歩くのが遅い
2. 僧帽弁閉鎖不全症、慢性心不全
- 咳をしたり、呼吸が速い
- 少し動くだけで息があがる
- 運動を嫌がるようになる
3. 歯肉炎、歯周炎
- 口臭がひどい
- 頬などが腫れる
- 食事が思うようにできない
- 歯がグラグラしたり、抜ける
- 歯茎が痩せて、歯が長く見える
4. 白内障、核硬化症
- 目の奥が白くなってきた
- 物にぶつかったり、物音に敏感になる
5. 認知症や感覚器、筋肉の老化など
- 以前に比べると遊ばなくなり、寝てばかり
- 昼夜逆転の行動(夜中に鳴く、動き回る)
- 攻撃的になる
- 反応が鈍くなったり、言うことを聞かなくなる
- トイレの失敗が増える
注意事項
- 子供を望まなければ、早めに不妊・去勢手術をしましょう。これだけで多くの病気を防ぐことができます。
- 年齢や体質などに合わせて、正しい食事管理は必須です。心臓や関節などに負担のかかる肥満にはくれぐれも注意してください。
- 適度な運動は大切です。
- 病気の早期発見は言うまでもなく、ペットの体は加齢と共に変化します。そのためには定期的な健康診断は必ず受けましょう。
Care シニア期のケアについて
現実を受け止めること
ペットを見ていると、いつまでも若く、元気でいてくれるものと思ってしまいますが、愛犬や愛猫の老化を感じたときに飼い主側の気持ちとしては、悲しく、寂しく思ってしまうものです。それは、もちろん当たり前のことで、悲しく思った後は、ギュッと抱きしめてあげ、大切に思ってる気持ちなど素直に伝えて、その現実を受け入れましょう。
それは、今日まで長く一緒に生活して来たというだけで、とっても幸せなことだからです。
生活環境の見直し
年を重ねてくると、今まで出来ていた何気ない、簡単なことが出来なくなったりします。段差があるところの上り下り、ソファへ上がろうとして失敗、思わぬところでケガ……様々な場面で、シニア期だと感じることがあると思います。
このような場合の時は、ソファにスロープをつけてあげたり、座布団を何枚か重ねて階段状にするなど、「できなくなった」と思う日常生活での行動を少しお手伝いをしてあげるような工夫をしてあげましょう。視力が弱ったり、転びやすくなっているのであれば、危険なものは片づけ、回避するようにしましょう。
また、だんだん寝る時間も長く、多くなってきますので、クッション性が高く、清潔を保てる素材の寝る場所を用意してあげましょう。シニア期になってくると、体温調節が若いころよりも苦手になってくるので、快適な気温・湿度が保てるような場所と広さを確保しましょう。シニア期を迎えたペットにとっては、暑すぎたり、寒すぎたりしても、移動するのが面倒でそのまま寝ているという事もあります。ときどき、寝ている場所の環境チェックもしてあげましょう。
シニア食
私たち人間と同じで、ペットもシニア期になってくると必要な栄養も変化してきますし、食べ物の好みも変わってくることがあります。例えばですが、今までは全く見向きもしなかったミカンを、12歳を過ぎた頃から、やたらと食べたがるようになった子もいます。犬や猫は人間と違い、自身の体内でビタミンCを作ることができます。しかし、年齢と共にいろいろな機能も低下し、きっと体が要求していたのでしょう。
ペットの好みが変わった時に、それは何かの栄養素が足りていないというサインなのかもしれません。そういうことも理解しつつ、食事の内容に気を配ってあげましょう。
シニア食のポイント
- タンパク質の消化・吸収能力が落ちてくるので、良質なタンパク質を与える。シニア犬になると筋肉量も落ちてくるものです。その筋肉を作るには、アミノ酸が必要となるので(タンパク質はアミノ酸の集まったもの)、なるべく良質なものを与えましょう。
- 便秘をしやすくなるので、適量な食物繊維を与える。ちなみに、便秘がある場合は腸がある辺りのお腹を右回りに撫でてあげるのも、効果はあります。
- 脂肪分を与えすぎないように注意しましょう。与えすぎると肝臓に負担がかかります。ただし、必須脂肪酸は不足しないようにしましょう。
- 消化能力も低下するので、消化の良いものを与えましょう。
- 適度なカルシウム補給で、骨粗しょう症を予防しましょう。与えすぎは内臓へのカルシウム沈着などを起こすことがあるので注意をしましょう。
- 食欲が落ちたりすることもあるので、スープをかけたり、好物の物を加えてあげるなど、少しでも嗜好性が高まるように工夫をしましょう。
「ふれあい」と「運動」
「もう歳だから、無理をさせないように、あまりかまうのもやめよう」「家族から離れた場所で静かに寝かせてあげよう」「散歩もあまりしなくていいか?」と思ってしまいがちですが、実はその逆なのです。
確かに、余計なストレスをかけないように、安心して寝られる場所・生活環境を作ってあげることは大切ですが、それでは老化を加速させてしまうことになると言えるかもしれません。適度なふれあい・刺激は、気持ちも体も健康にします。シニア犬になると、しつこくされることは嫌ったりするものですが、無理のない範囲でつかず離れず、大切なペットの様子を見ながらたくさん声をかけ、撫でて、抱きしめ、一緒に散歩の風を感じましょう。
食欲が低下した状態にあっても、犬の場合はお気に入りの公園で、お気に入りの犬友達と一緒にいるだけで、食欲が復活してくることもあります。また、犬の五感の中で、最後まで残るのが嗅覚と言われています。走れなくなっても、匂いを嗅ぐことで脳を刺激できますので、ちょっとした宝物探しゲームなどを取り入れた散歩や運動はオススメです。
若い頃の生活環境も影響します
ペットの老化を感じ、そこからあわてて何か対策を立てても、思ったほどの効果は得られないという人がいますが、その言葉が意味するところは、この世に生を受けたときからすでに加齢への歯車は動き始めているのです。
肥満にすれば、それはやがてシニア期になって影響もしてきます。無理な運動を重ねれば、やがて関節にも負担がかかります。食事の内容にしてもそうです。若い頃の生活ぶりがそのまま反映されるのがシニア期です。「うちの子はまだまだ!」と思っていても、ペットの一生というのは、私たち人間に比べれば短いものです。
ペットの長寿が目立つようになってきた現在だからこそ、子犬・子猫の頃からの健康管理で、元気なシニア期を送らせてあげましょう。
Treatment
当院で行う
シニア期の診療について
ワクチン接種
シニア期の高齢のワンちゃん、ネコちゃんの飼い主さんの中で、よく「うちの子、年もとってきたし、あまり散歩にも行かなくなったんですけど、ワクチン接種はもうしなくてもいいですか?」と、こんな質問を飼い主のみなさんからいただきますが、シニア期に入ったからこそ、ワクチンをきちんと接種して欲しいのです!
若い時に比べて、免疫力・抵抗力が低下していますので、そんなにお散歩に行かなくても、感染してしまうこともありえるのです。
ワクチンについて終末期医療
ターミナルケアとも言いますが、病気や老化などで死期が近づいたペットのために苦痛をできる限り取り除き、穏やかに過ごせるように医療・介護することです。延命ではなく、生活の質(QOL:クオリティ・オブ・ライフ)の維持向上が目的です。
一般的に治療は以下のように分類されます。当院では、終末期の治療は、ご家族のお気持ちを考慮した上で一緒に決めていきます。
根治治療 | 病気の根絶が目的で積極的に治療します。根治が目的であるため、QOLの若干の低下を許容します。 |
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緩和治療 | 病気の症状、進行をできる限りコントロールします。QOLの維持・向上が目的で、慢性疾患などに適用されます。 |
末期治療 | 病気に対する手段がない(治すことが困難)場合、痛みや苦しみを軽減するための治療です。延命治療ではなく、穏やかな最期を迎えられるように出来る限りの苦痛を取り除くなどの治療となります。 |
大切な家族のために(当院の想い)
ペットも高齢化の時代ですが、人に比べれば、その寿命はやはり短いもので、一緒に暮らしていれば、いずれ看取るというときが来ます。その時に、避けて通ることが出来ないのがターミナルケア(終末期医療)です。
私たちスタッフは病気やケガを治して、元気に暮らせるようにしてあげたいと日々努力しています。しかし、どうしても治すことのできない病気や、その子の寿命でお別れをしなくてはならない時、ご家族の方はもちろんですが、獣医師をはじめスタッフも大変悲しい思いをします。これは、何年やっていても慣れることはありません。だからこそ、最後までしっかりと看取ってあげたいと考えています。この子にとって何が最良なのか、ご家族の悔いを残すことがないだろうかなど、直面したときに真摯に考えなくてはなりません。
終末期医療は苦痛を伸ばす治療ではありません。どこが痛いか、苦しいかなどペットの状況を正しく把握して、我々医療現場のスタッフはもちろん、ご家族も共に病気や老化に向き合いケアをして、より良い時を過ごせるようにすることが大切です。この時期は特に辛いこともあるかと思いますが、無償の愛を与えてくれたペットに感謝の気持ちで介護してあげてください。
私たちスタッフも、出来る限りお力になれればと思います。